表出するいたみ

2025.04.12(土)〜 04.29(火)

今年に入ってから店の水道が逆流して継ぎ目から水が溢れ出してしまうようになってしまった。騙し騙し営業していたのだが、いよいよ排水の流れが悪くなり店の工事を担当してくれた業者に確認したところ、グリストラップという排水の脂やゴミを取る装置が外にあるから確認してくれと言われた。何となくそういった装置があるので掃除を時々してくれと言われたのをと思い出した。店の裏手のグリストラップの中を確認すると、中は固まった脂にまみれてとんでもない状態だった。それもそうだ、1年分以上の飲食店から出た脂が溜まっているのだから。急いで手袋をつけて固まった脂をかき出した。生々しい汚水の臭気を嗅ぎながら、脂まみれの臓器の中を探っているような感覚になった。

結局、自分ではどうにもならずグリストラップの清掃業者に清掃を頼むことになった。翌日、清掃業者にグリストラップの清掃をしてもらい、排水のテストをしたときの事だった。店内の全ての蛇口を全開に開き大量の水を排水していると、キッチンのいたるところから逆流した水が溢れてきた。キッチンの中はあっという間に水びたしになってしまい、止まらない水を茫然と見ながら、食道アカラシア(胃と食道の間の筋肉が収縮してしまい食べ物などが飲み込めなくなってしまう難病)の闘病中に毎晩のように飲み込めなかった食べ物が逆流して吐き出してしまった事を思い出していた。グリストラップという大事な機能を持っている装置をすっかり忘れていたことで起きてしまった今回の問題と、身体の機能を失ったことで感じた痛みが繋がった。清掃業者に確認するとどうやら、配管にも脂が詰まっていたらしく直ちに高圧洗浄してもらい店内の排水はやっと機能を取り戻した。

キッチンに溢れた大量の水を掻き出しながら八潮市の道路陥没事故のことを考えていた。僕が住む越谷市も事故の影響を受け、排水を控えてほしいという市内放送が頻繁に流れていた。見えない下水管の傷みが原因となった今回の事故に巻き込まれてしまった運転手の方がトラックの運転席ごと今も下水管のどこかに詰まっているという絶望的な状況を思ってやりきれない気持ちになった。今年に入って身の回りで起きたこれらの出来事を展示のテーマにしようと思った。

「いたみ」という言葉には様々な意味がある。痛みは体や心から感じる辛い感覚であり、傷みは損傷や破損、または腐敗を意味する。そして悼みは故人を想い悲しむことである。一連の出来事の中で、感じた「いたみ」について作品を通して考えてみた。
A
A


A
A

A
A

表出するいたみ | 関口潮
A

2025年4月12日(土)〜2025年4月29日(火・祝) 13:00 – 19:00
*土日祝のみオープン *入場無料
A
会場: あをば荘
住所:〒131-0044 東京都墨田区文花1-12-12
京成電鉄・都営浅草線・東京メトロ半蔵門線・東武スカイツリーライン 押上駅から徒歩14分
東武鉄道亀戸線 小村井駅から徒歩9分
東武スカイツリーライン・東武亀戸線 曳舟駅、京成電鉄押上線 京成曳舟駅から徒歩16分

デザイン: SALT*A


A
クロージングパーティー *参加無料
2025年4月29日 15:00 –

作家を囲んでささやかなクロージングパーティーを行います。簡単なおつまみとお酒をご用意いたします。
A


A
関口潮 | Ushio SEKIGUCHI

1979年10月 埼玉県生まれ
2004年3月 多摩美術大学 絵画学科版画専攻 卒業
2006年3月 多摩美術大学大学院 美術研究科絵画学科版画研究領域 修了
2020年-  一般社団法人アートト アーティストコース受講(以降2024年まで毎年受講)
2023年-  アーティスト・ラン・スペース「FRINGE」をオープン

【主な展示・入選】
2020年 「シェル美術賞2020」入選(国立新美術館、六本木)、「Multigeneration Square/交錯する世代、対峙する絵画」(藍画廊、銀座)
2023年 「WATOWA ART AWARD2023」ファイナリスト(WATOWA GALLERY、浅草)
2024年  個展「Practice」(FRINGE、越谷市)
A

*参考作品