完璧に抗う⽅法 – the case against perfection –

2022.01.15(土)〜 01.30(日)

戸田祥子/三枝 愛「波を掴み、地と歩む手立て」

「完璧に抗う⽅法 – the case against perfection -」は、図師雅⼈・藤林悠による企画展覧会です。企画者を含む9名と1組のアーティストが、2⼈展を隔⽉で開催していきます。第2回⽬は、戸田祥子・三枝 愛「波を掴み、地と歩む手立て」 

この展覧会は、アーティストの図師雅⼈と藤林悠で⽴ち上げました。2⼈展形式の美術展覧会の開催にあたり、事前にリサーチとして出展作家の制作を始めた動機、過去作のすべてについてなど、作品にまつわるインタビューを⾏い、その内容から抽出しコンセプトを作成しました。アーティストの営みについて彼ら/彼⼥らの⾔葉を通してその経験を集積し、発された表現そのものがまた⾃⾝の元へ還るまでの過程を垣間⾒ようとします。 

戸田祥子/三枝 愛「波を掴み、地と歩む手立て」

会期:2022年 1/15(土)16(日)22(土)23(日)29(土)30(日)(土、日のみ開場)
開場時間:13:00 – 19:00 
※追加オープン日 1/28(金)13:00-21:00
会場:あをば荘
住所:〒131-0044 東京都墨⽥区⽂花1-12-12 
URL : http://awobasoh.com 
問い合わせ:enhancement.exhibitors@gmail.com 

アクセス:京成電鉄・都営浅草線・東京メトロ半蔵⾨線・東武スカイツリーライン 押上駅から徒歩14分
東武鉄道⻲⼾線 ⼩村井駅から徒歩9分
東武スカイツリーライン・東武亀戸線 曳舟駅、京成電鉄押上線 京成曳舟駅から徒歩20分

あをば荘の感染症対策についてはこちらからhttp://awobasoh.com/archives/1819
※感染対策のため、会場内に滞在できるのは5名までとします。混雑時は、長時間の滞在はお避けください。スタッフがお声がけする場合があります。

イベント情報:アーティストトークの公開 
各会期の期間中に、参加作家と企画者のトークを収録、ウェブ上で公開。
【更新】1/30(日)に収録したアーティストトークを以下からご覧いただけます。登壇:図師雅人、藤林悠、三枝愛、戸田祥子

【2023/9/30更新】トーク動画は視聴期間終了につき、公開を停止しました。


 

戸田祥子の経歴は多様だ。初期のハプニングからソーシャリー・エンゲージド・アートに通ずるプロジェクト、映像や立体、それらを交えるインスタレーションやアート・コレクティヴと国内外で様々な展開がみられる。近年、彼女は遠く離れた地形やまったく異なる何かに自身のからだが例えられる、ということを距離や空間を超える回路として捉え制作している。そこでは子どもの手遊びやあやし方といった、彼女が日常的に振る舞う習俗的行為への関心もみられる。

一方、三枝愛は椎茸農家である生家とその土地をめぐる制作「庭のほつれ」を一貫して続けている。三枝の活動は、年月が進むに従って、保存のための技法の多様化や、彼女自身が交流してきた土地の歴史などを巻き込みつつ、多面多層的な展開を見せている。現時点でのその活動の全景によって、彼女が生まれ育った庭はより豊かな広がりをもち、それは今後も複雑な体系をかたちづくることだろう。

戸田と三枝とのインタビューを経て、興味深い点がある。戸田は、彼女自身が歩んできた土地土地とそこで直面する状況への関心に合わせて、様々な手段をこうじて作品を展開させてきた。そして今や彼女はささやかな日常に時空を超える、開けた回路を見出すまでにいたる。そこでは限定した立ち位置に自身が拘泥するのではなく、変化の波に身をさらしつつも、直面する状況からある特性をつかみ、それを手立てとする彼女の表現のあり方をみることができるだろう。

他方の三枝は、変化にさらされる生家の土地に対して自分がどうあるべきかということを念頭に、その一つの土地と歩みを共にしている。土地の変化自体が避けられないことだとして、彼女の眼差しに根付いた特有かつさまざまな記録の残し方は、その記録自体がネットワークを形成し、土地の一部へと結び直されて、土地とそこでの営みが抱える認識の固定化を改める手立てとなり続ける。

つまり2人の実践は自分自身や自分に関わるものに訪れる変化に対し、どう適応していくのかということについて共有している。そこにはひとりの存在や、ひとつの土地への価値観が安易に固定化されたり、不意もしくは不当に変化を余儀なくされたりすることへの抵抗がみてとれる。その抵抗のあり方は、時には状況の流れにまかせて漂いながらも身の振方を考え、時には留まりその場で必要なものを結び合わせてから進む、そのようなものである。変化が著しい現代では繊細で、未成熟なものほど黙して押し流され、そして省みられない。だからこそ彼女たちの実践は受け入れられない変化への抵抗の指標として捉えることができるだろう。


戸田祥子 TODA Shoko 1981年生まれ。2004年 東京藝術大学油画専攻卒業。2006年 東京藝術大学大学院美術研究科 絵画専攻壁画研究領域 修士課程修了。2007-2010年 中国北京Central Academy of Fine Arts留学。主な個展に 「分け目で、踊る」(2016年 krautraum・東京)、「地理に、リズム」(2011年 3331 Gallery・東京)など。主なグループ展に「引込線 / 放射線」(2019年 第19北斗ビル・埼玉)、「瀬戸内国際芸術祭」(2013・2016年 香川・粟島)、「断片から景色」(2016年 アキバタマビ21・東京)など。アーティストグループ hanage として、イベント、展示等も企画実施している。

「《あなたの昼と夜》《湖の発生、または練習》《指の地形》《小話 : わたし風景なのね ~》 によるインスタレーション風景 」
2019年 撮影:阪中隆文

三枝 愛 MIEDA Ai  1991年埼玉県生まれ、京都拠点。2018年東京藝術大学大学院美術研究科 油画専攻修士課程修了 。失いつつあるものや事象との関係を結び直すために、拓本や染織、サイアノタイプによるフォトグラム、作文など、その都度必要な技術を選び取りながら、留保と転用としての美術を模索している。近年の主な活動に、「ab-sence / ac-ceptance 不在の観測」(2021年 岐阜県美術館・岐阜)、「A Step Away From Them 一歩離れて」(ギャラリー無量・富山)、個展「尺寸の地」(Bambinart Gallery・東京)、などがある。また、コレクティブ「禹歩」として、捩子ぴじん、島貫泰介らと共に 2019年より活動。

《庭のほつれ / I’m waiting for the time, when this field is open again》2021年
     「A Step Away From Them 一歩離れて」展示風景 (ギャラリー無量/富山)


               

【展覧会レビュー】
世の初めから現れていること(長谷川新 による展覧会レビュー)

【展覧会アーカイブ】
展示状況撮影:間庭裕基
公開制作撮影:藤林悠

戸田祥子/三枝愛「波を掴み、地と歩む手立て」_caption

戸田祥子
擦り付けるようにして捏ね、まとまってきたら、たたきつけて折り返し、転がす
2022
映像 10min48
戸田祥子
ドラッグストア前の騒ぎ(夜)
2021
アクリル絵具、紙
戸田祥子
大波小波ぐるりと回って猫の目
2021
アクリル絵具、紙
戸田祥子
顔を歩く
2021
本 105p
三枝愛
庭のほつれ / I’m waiting for the time, when this field is open again.
2021 –
新聞と絹糸による紙布織、染色、作文、富山新聞、椎茸原木の樹皮、べっ甲、
鉛筆、座布団、コンクリートブロック、水
三枝愛
庭のほつれ / I’m waiting for the time, when this field is open again.
2022
新聞と絹糸による紙布織、染色、木枠、釘、iPhone に映像(21min55)、富山新聞、針、針山、切符
20220130(会期最終日)に行われた、戸田祥子、三枝愛による公開制作風景より

 

完璧に抗う方法 – the case against perfection – 出展作家

藤林 悠 FUJIBAYASHI Haruka
小野冬黄 ONO Fuyuki
戸田祥子 TODA Shoko
三枝 愛 MIEDA Ai
平野泰子 HIRANO Yasuko
衣真一郎 KOROMO Shinichiro
佐藤史治と原口寛子 SATO Fumiharu & HARAGUCHI Hiroko
関真奈美 SEKI Manami
図師雅人 ZUSHI Masahito
田中 永峰 良佑 TANAKA N. Ryousuke

本展に向けて
本展は2017年、アーティストの図師雅人と藤林悠による行われた展示「Enhancement」(※1)に端を発する。「身体」という共有のテーマの認識、そして当時私たちにでさえ、ありふれて聞こえるようになってきていたSingularity(シンギュラリティ、技術的特異点)という、漠然としながらも変化を訴えかけてくる時世への、各々の立ち位置を考えることが展示「Enhancement」の目的だった。
その後も図師と藤林による議論は継続して行われ、2人の関心はSingularityやEnhancementといった力ある言葉には決して括ることができない、アーティストの「営み」(※2)自体へと目を向けていくことになる。生きていく環境の中で、無数の事物の流動にさらされながら、作品を制作し、それを社会に開くアーティストたち。社会に影響を与えつつ、と同時に自らがつくり上げた作品とそれによって生じた社会からの影響を受けて、アーティストもまた変容する。そこには、終わりがみえず、しかし、だからからこそしなやかで毅然とした、社会・環境変化へのアーティストの態度が今も、そして連綿と続く歴史の中にもみてとれる(そして、この態度は他の者たちへ連鎖できる)。
本展「完璧に抗う方法」(※3)は、この「営み」の力学や、それを生みだすアーティストたちが生きる環境を知るために現代を生きる9名と1組の参加アーティストたち(※4)へ、幼少期から現在の活動(収録時)までに至るインタビュー(※5)を長い時間をかけて行っている。展覧会はそのインタビューから紡ぎ出されたアーティストたちの関係性を編成した5つの会期によって構成される。
各会期のテーマは個別性を持つが、ぞれぞれの会期と関係を結ぶことで、現代の私たちが思慮すべき事柄を多重複層的に含んでいるものになるだろう。願わくば、本展のアーティストたちの「営み」が交わり、生み出される複数の環境から湧き出た事物が、また、いつかどこか誰かの、できればあなたの「営み」へと流れ出すことを期待する。

※1 Enhanement … 「増強」「増進的介入」と訳される先端科学医療技術の用語でもある。「治す」のではなく、遺伝子操作、投薬、人体改造など元々の健康状態の身体や精神に影響を「加える」技術。人間観の変質や優生学的差別にも結びつきかねない観点から、議論が重ねられている。展示「Enhancement」はこのトピックから示唆を受け、図師と藤林というアーティストの心身状態とメディウム、そして制作や制作環境との関わりを考え直すものだった。会場はSpace Wunderkammer(2017年3月24日~4月9日、金土日のみ)。期間中、冨安由真、田中永峰 良佑、奥村直樹、菊池良太、佐藤史治と原口寛子を招いてのトークも行った。

※2  「営み」というテーマにおいては、本展の会場となる「あをば荘」も非常に重要な意味を帯びる。2012年より墨田区の古い集合住宅の一部を改装し、企画スペースとして運営しているオルタナティブスペースだが、2階を企画者たち自身の住居にしていたこともあったりと、生活と表現が分かち難く結びつく場でもある。これまで運営に関わってきた者も、アーティスト、美術・演劇関係者、農業関係者、福祉従事者など多様である。

※3 本展のタイトルは書籍「完全な人間を目指さなくても良い理由 遺伝子操作とエンハンスメントの倫理」(マイケル・J・サンデル著、林芳紀・伊吹友秀訳、2010年、ナカニシヤ出版)の原題“THE CASE AGAINST PERFECTION”を、企画者たちが意訳したものである。本著は、企画当初の図師・藤林によるリサーチや対話、振り返りの中でたびたび取り上げられてきたものでもある。

※4 本展によって私たちが意図するものは、本来すべてのアーティストが対象であることは自明である。そのため今回参加をお願いしたアーティストたちは、テーマに照らし合わせた上で、図師・藤林が自分の眼で作品をみて、言葉を交わした、それぞれの具体的な経験に基づく作家が挙げられている。結果的に同世代の作家が集まっている。

※5 本展のために実施されたアーティストたちへのインタビューは、展覧会後にまとめられる記録集にて一部掲載される予定である。

↓ 詳細についてはこちらから ↓

完璧に抗う方法 – the case against perfection –

【第1回】藤林 悠/小野冬黄 「粧いを変える/何かに決めないでおく」

第3回】平野泰子/衣真一郎 「風景(私は知っている/整理できない」

【第4回】佐藤史治と原口寛子/関真奈美「2人だけでも複雑/はじけて飛び散り、必然的にそこにおかれる」

【第5回】図師雅人/田中 永峰 良佑「“うた”へ対う(責任あるいは、わりきれなさから)」